従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に 弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについ ては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という 言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの 事実にまつわる物語
変人か、偉人か? 狂人か、天才か? 志願兵として前線にいたウィトゲンシュタインが、暗号混じりの 文章で日記帳に書きつけた『論理哲学論考』の草稿、そこから浮かび上がる、軍隊生活、死との戦い、「仕 事」への責務と欲求、愛、そして自殺の誘惑。かの有名な「語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない」 という言葉の裏に隠されたウィトゲンシュタインの真意と祈りを、戦火の東部戦線という背景が炙り出す。
Théâtre des Annales
2015.10.15 収録