川沿いのマンションに暮らす中学校の英語教師、辻さゆりは部屋のベランダから眺めるその川の景色が好きだった。街の灯りが川面に映り、ゆらゆらと揺れる川の景色が好きだった。ある日、彼女は近所のスーパーで女性が万引きするのを目撃した。缶入りのミートソースだった。一瞬、目が合ったが気付いていないフリをした。しかし彼女は、その女性がおそらく自分と同じくらいの年齢だったこともあり、軽い衝撃を覚えた。その日から彼女
ある日、彼は同僚の女性にひどく怒られた。しかし3日後、その内容をどうしても20パーセントしか思い出せないでいた。鮮やかに憶えているのは彼女の前歯についていた口紅の色だった。
古い週刊誌のモノクロページに残る若かりし頃の母。夫婦漫才師の家で家政婦として住み込み、浮き草稼業の芸人たちに囲まれて微笑む女の姿は、失踪を重ねた行方知らずの母親を探す異父兄弟にとって、たった一つの手がかりだった。根無し草の様に忽然と姿を消さざるを得ない母の人生を辿る息子たちが母に恋した瞬間、人生がシンクロする。心の傷を隠しつつも、気楽に生きようともがく人間の家族のあり様を問う物語。