ある日突然、死んだ友人の幻影を見るようになった小説家、稔梨。彼女は友人の民俗学者と共に、海沿いの小さな集落に住む霊能力者のもとを訪れる。しかし彼女が尋ねたとき、集落は年に一度の祭『おわたり』の準備に大わらわだった。『おわたり』とは、その年に海で死んだ者たちの魂がいっせいに黄泉の国へと渡ること。 死者と生者が混在するひと夜。海は闇に溶け出し、人の秘密があふれ出す。
1972年日本への沖縄返還が行われることとなり、沖縄は大きく揺れていた。政治、市民の生活、そして裏社会、すべてが交錯し、火花を散らす。核や軍用地を巡る密約はほんとうにあったのか。現代日本の問題の縮図が噴出する1972年の沖縄を舞台に、政治とはなにか、外交とはなにか、生きるとはなにかを問いかける。
沖縄戦激戦地であった糸満市の丘の上に「南北之塔」は立っている。それは、沖縄戦で亡くなった沖縄の民と戦死したアイヌ兵士たちの慰霊碑であり、側面には、「キムンウタリ(山の民)」とアイヌ語で刻まれている。共に迫害されたふたつの民族が「日本の盾」となって戦った、その皮肉と、しかし在った魂の交流を、知念正真の傑作戯曲「人類館」をリスペクトした構造で描く。