『下弦の夏』—ひとりの軍国少年としてあの時代を体感した劇作家・藤田傳が、昭和19年の夏を再検討しながら、日本人の精神の行方を問う“戦争の記憶の物語”。慶寿苑—入所資格。寄辺、身寄りなき七十歳以上の高齢者。戦争の残骸。便りなし、来訪者なし。本日1名死去。消え入る蝋燭のようなこの施設に、ぽつりぽつりと記憶の花が開き始める。
30年前に蒸発した父親の足取りを追う息子。浮かんでは消えていく幻影を追い、父と子の空白の時間は徐々に蘇っていく…。藤田傳が第29回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した秀作を、モルドヴァ演劇の旗手ウジェーヌ・イヨネスコ劇場芸術監督ペトル・ブトカレウが演出。長い間のソ連支配、独立後はヨーロッパ最貧国とも呼ばれたモルドヴァの視点から、藤田傳が描いた社会底辺の悲しみを極彩色の鮮烈さで描き出した舞台。
劇団1980・新宿梁山泊 合同企画公演
150年前の渋谷・道玄坂。宇田川の畔で出逢った若い男女。二人は求め合い、引き裂かれ、異界を駆け、運命を知る。そして永久にも近い時間を隔てて尚、再び出逢う約束を誓う。今生の命を捨てて――三島賞作家・小林恭二が自身の小説『宇田川心中』を初戯曲化し、劇団1980+新宿梁山泊という二つの演劇集団が合同企画で立ち上げた舞台。演出は情念とロマンを明快に、且つビジュアルに放電する金守珍。「青山公園=青山墓地下」