夢の中に出てきそうなどこかの街の片隅に、蝶を入れたガラスケースを磨きながらひっそりと暮らす美しい女性「あげは」がいる。あげはと流れ者の青年「ヒカル」との恋物語を軸に、多様な人間模様が展開する。男は帰るべき場所を求め、女はひたすら帰らぬ男を待つのだった。
人魚たちがやってくる。東のはずれにまず最初に訪れたのは人魚たちだった。桜散る赤い欄干のそばで買った樟脳船は動こうとはせず、ただ浮かんでいるだけでした。そして、忘れたはずの街が桶の底に浮かびあがってくるのです。あの街が好きだった砂浜にうちよせられ、肩をあわせる流木のようなあの街の人々が好きだったさよなら、ウチウミさよなら、懐かしい思い出たちさよなら、僕の少年時代