2011年夏。仙台市郊外にある幸田家は、大地震で半壊の指定を受け、半年を経ても殆ど手つかずの状態。昼下がりの茶の間で向き合っているのは、福永陶吾と妻の夏苗。夏苗の両親の幸田伸介と渓子、兄の伸也。卓の上には一通の書面。木々の梢を震わす蝉時雨とは対照的に、地震の傷跡も生々しい室内は沈鬱な静寂が支配する。何れの肩にも焦燥感と切迫感、そして徒労感が重く張り付いている。長い沈黙に耐えかねたように話を切り出す