舞台上にゾロゾロと現れるのは、普段着の男女28人。誰もが一度は耳にしたことのあるポップソングをバックに黙々と身体を動かす彼らに、年齢や職業、 ダンスの経験をはじめ、特別な共通点はない。舞台手前でDJ役を務めるスタッフが突如舞台にあがり<プライベート·ダンサー>にのせて見事なダンスを披露したり、<ばら色の人生>では場内の照明がすべてピンクになったり……歌詞にあわせたペタな振付や演出に、観客は笑い、感じ入り、時には呆れる。ポリスの<見つめていたい>が流れると、 出演者たちはじっと客席を見つめる。ここに「ダンス」は、「振付」はあるのか。この空間=「劇場」とはなにか。ジェローム・ベルの問いかけは軽やかなようで、鋭い。(F/T11:Documentsより転載)
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
1964年フランス生まれ。パリに在住し、世界的に活躍するダンサー、振付家。身体表現に説明的な言葉を織り交ぜたコンセプチュアルな作品で知られる。
フランス国立舞踊センター・アンジェで学んだ後、ダンサーとして数多くの振付家の作品に参加。92年のアルベールビルオリンピックでは開会式・閉会式の演出を担当したフィリップ・ドゥクフレの助手を務める。94年に最初の振付作品を発表して以来、多数の作品を発表。2004年にはパリ・オペラ座バレエ団に招かれ『ヴェロニク・ドワノー』を上演。01年に発表した代表作『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』は、05年のニューヨーク公演においてベッシー賞を受賞した。
05年、タイのダンサー/振付家ピチェ・クランチェンとのコラボレーションによる、二人の身体表現と会話で構成された『ピチェ・クランチェンと私』を発表、2008年の横浜トリエンナーレにて上演された。本作品において08年、文化的多様性のためのRoutes Princess Margriet Awardをヨーロッパ文化財団から授与される。
10年にはアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルとの共同創作『 3Abschied ドライアップシート(3つの別れ)』をあいちトリエンナーレ、彩の国さいたま芸術劇場にて上演。F/Tには2011年の『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』で参加している。