小泉は、あいちトリエンナーレからの委嘱を受け、アイスキュロス作のギリシャ悲劇『縛られたプロメテウス』を出発点に、VR技術を使った初の本格的演劇作品を制作した。未来を予見する能力をもちつつも、ゼウスから火を盗み、人間に与えた罪で永劫の苦しみに苛まれるプロメテウス。矛盾した存在であるプロメテウスは、人間の身体がもつ有限性と、それを乗り越えようとするテクノロジーの緊張関係として捉えることができる。
VRのヘッドマウントディスプレイを装着した観客は、何もない空間の中を自由に歩き回りながら、自分とは異なる身体的条件に生きる他者の感覚や感情、その絶望と希望を全身で追体験することになる。そこで私たちが経験するのは、人間が身体を超越して存在し続けるユートピアなのか、それとも生命の本質が失われたディストピアなのだろうか?
(あいちトリエンナーレ2019カタログより転載)
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
1976年群馬県生まれ。国家・共同体と個人の関係、人間の身体と感情の関係について、現実と虚構を織り交ぜた実験的映像やパフォーマンスで探求している。これまでテート・モダンのBMWテート・ライブや上海ビエンナーレ、シャルジャビエンナーレ等、多数の国際展等に参加。個展としては「Projects 99: Meiro Koizumi」(ニューヨーク近代美術館、2013)、「捕われた声は静寂の夢を見る」(アーツ前橋、2015)「帝国は今日も歌う」(Vacant、2017)、「Battlelands」(ペレス美術館、マイアミ、アメリカ合衆国、2018)等を開催。VR技術を使った作品では『サクリファイス』(MMCAソウル、韓国、2018)、『縛られたプロメテウス』(あいちトリエンナーレ2019)がある。