この作品の主人公は、原美術館そのものである。
1938年に建設された私邸が私立の現代美術館として1979年に開館した。渡辺仁の手になる設計は、アール・デコが香るモダニズム建築の傑作とされる。本作の冒頭に出てくる、宇宙船の内部のような空間など、建物そのものが美術品だといえる。小ぶりな前庭は多くのダンサーからも愛され、数々のパフォーマンスが行われた。しかし残念ながら老朽化により閉館が決定。多くのアーティストが別れを惜しむパフォーマンスを行った。
コンセプト・映像は向井山朋子とレニエ・ファン・ブルムレン。出演は向井山と森山未來である。向井山はオランダを拠点にするピアニストだが、自身も演出家・美術家・パフォーマーだ。森山は役者・ダンサーとして世界的に様々なアーティストと協働している。共に強力な存在感を示す二人に対し、映像の中の原美術館は共鳴し、踊っている。
本作は2020年に撮影され、同館が閉館される2021年1月11日までの10日間配信された。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
向井山朋子 - ピアニスト/アーティスト/ディレクター
オランダ、アムステルダム在住。1991 年国際ガウデアムス演奏家コンクールに日本人ピアニストと して初めて優勝、村松賞受賞。アンサンブル・モデルン、ア ンサンブル・アンテルコンタンポラン、ロンドンシンフォ ニッタ、ロイヤルコンセルトヘボウなどにソリストとして招聘され、新作の初演に携わる。近年は従来の形式にとらわれない舞台芸術やインスタレーション、映像など女性性を核に身体性、セクシャリティ、境界、記憶、儀式、時空など異なるテーマを横断する作品の制作・発表を続けている。2007年、向井山朋子ファンデーションをオランダに設立、2015年には日本で一般社団法人 ◯+(マルタス)を設立し、プロデュースの分野でも活躍。 https://multus.tomoko.nl/