「マスク」の舞台となるのは、JR 常磐線の車内。
登場人物は、異なる時を生きる高校生たちである。
2020年5月15日、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除された翌日、感染症対策のためにマスクを着用して登校する高校生たち。
2011年5月14日、放射線防護のためにマスクを着用し、避難先からサテライト校に通う高校生たち。
2011年3月10日、マスクを着用せずに下校する高校生たち。
出来事は過去に編入される際に正負や善悪に振り分けられがちだが、過去の今を生きる人々もまた、
現在の今を生きる私たちと同様に、これから何が起こるか全く知らされないまま未来を眼差していたのである。
彼らと私たちは、同じ時に揺られて、同じ方向に進んでいる。
『常磐線上り列車 -マスク- 』で描く時は、現在する過去である。
劇作家・柳美里が主宰する劇団。1987 年、「水の中の友へ」で旗揚げ。
1993 年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少受賞し、大ヒットを記録する。1994 年『Green Bench』が戯曲として初めて第 7 回三島由紀夫賞の最終候補となる。
1995 年までの 8 年間で、様々な演出家とともに作品を創り、計10 作品を青山円形劇場を中心に上演した。また、パルコ劇場などでの公演のほか、全国ツアーを行い各地で公演を行った。
以降、小説に軸足を移していたが、2018 年に南相馬市小高区の自宅裏に小劇場「Rain Theatre」(旧・La MaMa ODAKA)をオープンし、四半世紀の沈黙を破り、復活公演『静物画』『町の形見』を連続上演した。2019 年『ある晴れた日に』では、南相馬市、仙台市、盛岡市の東北ツアーを行った。