闇商売で成功した雑誌編集者の田島は、ふと、田舎から妻子を呼び寄せ、まじめに生きて行こうと考えた。そのためには何人もの愛人と、きっぱり縁を切らなければならない。彼は「美女を探して妻の役をしてもらい、愛人の元を訪ねて別れを告げる」ことにする。果たして彼はこれ以上にない適役としてキヌ子に出会う。闇市で担ぎ屋をしている怪力で大食い、鴉声でケチで下品な絶世の美女だ。「愛人の前では口は利かず頷くだけにしろ」と
作者・松原俊太郎が演劇と出会うきっかけとなったブレヒト作『ファッツァー』をモチーフに、第一次世界大戦中の脱走兵を戦後日本に甦った英霊にトレース。「やってきた者たち」として戦争と自らの生死について語る彼らは、ときに閉塞感に悩む日本人の現在の姿を彷彿とさせ、さらには波にさらわれた記憶を語るなど、多くの人々の生きていた時間を一身に引き受けた、どこの誰とも特定できない存在だ。反復を恐れず、たわむことのない