闇商売で成功した雑誌編集者の田島は、ふと、田舎から妻子を呼び寄せ、まじめに生きて行こうと考えた。そのためには何人もの愛人と、きっぱり縁を切らなければならない。彼は「美女を探して妻の役をしてもらい、愛人の元を訪ねて別れを告げる」ことにする。果たして彼はこれ以上にない適役としてキヌ子に出会う。闇市で担ぎ屋をしている怪力で大食い、鴉声でケチで下品な絶世の美女だ。「愛人の前では口は利かず頷くだけにしろ」と言い含め、女に金を渡して田島は愛人の元を順に訪ねる…。
太宰治の遺作である未完の小説『グッド・バイ』をモチーフに、敗戦から死までの間に書かれた小説を中心にコラージュ。『人間失格』とその死にまつわる暗くスキャンダラスなイメージが先行する太宰。しかし、本作の原作となる『グッド・バイ』は、ユーモア小説と形容されるほど明るさと軽さに満ちている。作家の「自殺(とその理由である戦後日本の問題のなさという問題)」という核心に迫っていくドラマツルギーとともに、全体的に大きなうねりを持った構成で新たな太宰像を提示した。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
多様なテキストを独自の手法で再構成・コラージュして上演する。俳優の声と身体を通して劇空間を創出。言葉の抑揚やリズムをずらす独特の発語は「地点語」とも言われ、意味から自由になることでかえって言葉そのものを剥き出しにする手法はしばしば音楽劇とも評される。代表は演出の三浦基。所属俳優は現在6名おり、すべての作品に出演している。 2005年、東京から京都へ移転。2013年、本拠地・京都に廃墟状態の元ライブハウスをリノベーションしたアトリエ「アンダースロー」を開場。レパートリーの上演と新作の制作をコンスタントに行う。2006年に『るつぼ』でカイロ国際実験演劇祭ベスト・セノグラフィー賞を受賞。チェーホフ2本立て作品をモスクワ・メイエルホリドセンターで上演、また、2012年にはロンドン・グローブ座からの招聘で初のシェイクスピア作品『コリオレイナス』を上演するなど、海外公演も行う。2017年、イプセン作『ヘッダ・ガブラー』で読売演劇大賞作品賞受賞。(法人名:合同会社地点)
『ファッツァー』に続く地点×空間現代第2弾。ロシア・アヴァンギャルドを牽引した詩人マヤコフスキーが十月革命の一周年を祝うために書いたという戯曲『ミステリヤ・ブッフ』をサーカス小屋のアリーナを模した円形舞台で上演。音楽と言葉が、敵対し、鼓舞し合い、共闘する。野次がシュプレヒコールに変容し、時に歌となる。聖史劇を意味する「ミステリヤ」、笑劇を意味する「ブッフ」を全力で体現した、地点初の喜劇。
ローマの隣国ヴォルサイとの戦いで、都コリオライを陥落させた将軍ケイアス・マーシャスは、コリオレイナスの名を与えられる。しかし、民衆への軽蔑を隠さない傲慢の前にその武勲も色あせ、ついにコリオレイナスはローマを追放されてしまう……。ロンドン五輪を記念して開催されたワールド・シェイクスピア・フェスティバルの一環として、ロンドン・グローブ座からの依頼で制作された地点初のシェイクスピア劇。
松原俊太郎による現代日本のフォークロア。舞台中央には一艘の舟。漁師、サラリーマン、女子高生…と様々な「日本人」が現れ、奇妙な共同体は舟に乗り込むーー。行き場を求めて右往左往する人々の姿は、不思議と深刻さからは無縁であり、祝祭空間としての劇場を強く意識させる。震災以降の日本社会に対する痛烈な批判でありながら、死者とともにあること、忘却についての哲学的論考を含む原作を一幕に再構成、地点の新しい境地を拓
アルトー作『チェンチ一族』のリーディング公演から2年がかりで取り組んできたアルトーのテキストをついに舞台化。リーディング劇『追伸』で用いた「神の裁きと訣別するため」に、アルトー自身が友人や恋人に宛てて書いた手紙をコラージュして構成した。この年から始まった京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTの参加作品として上演、フェスティバル/トーキョーへも本作で初参加となった。