没後50年を越えた今もなお高い人気を誇る江戸川乱歩。小説『黒蜥蜴』は、明智小五郎シリーズの一篇として1934年に発表されました。日本一のダイヤと宝石商の美しい娘を狙う美貌の女盗賊・黒蜥蜴と、それに立ち向かう名探偵・明智小五郎。誰もが心躍る探偵活劇を、三島由紀夫は、1920年代の大阪から、高度経済成長期の東京に設定を変更。さらに原作では背景にあった恋愛や耽美的要素を前面に押し出すことで、情と知が幾重にも交錯する攻防戦を、決して結ばれぬ宿命にある男女の恋物語として戯曲化しました。1962年、新派を代表する水谷八重子主演で上演され、以来美輪明宏はじめ数々の名優・女優が挑戦し、映画・ドラマ化もされてきました。三島戯曲の中ではもちろん、 戦後演劇の金字塔として多くの人々を魅了してやまない傑作です。
三島は、戯曲を書くにあたり常に「日本の古典劇にある情」と「欧米人が構築した論理性」を意識していました。『黒蜥蜴』においては、「情」の黒蜥蜴 対「知性の怪物」明智という構図で、非常に分かりやすく表現されています。一方で本作には、大衆向けの娯楽作品として歌舞伎の様々な様式や手法が盛り込まれており、溢れ出る美しい台詞には、美醜善悪の価値判断を揺るがす作家独自の美学も色濃く表れています。
宮城聰は、言葉の音楽性に注目し、本作の上演としては珍しい音楽劇としての演出を試みます。出演者は総勢20名。音楽は宮城作品ではお馴染みの棚川寛子。スタッフには、かつて三島の舞台を手掛けた舞台美術家・高田一郎氏、日本の舞台照明界を長年牽引してきた沢田祐二氏の両巨匠を迎え、豪華布陣が実現しました。宮城聰とSPACが満を持して三島の美学に挑む一大スペクタクルです。
<あらすじ>
美しいものをこよなく愛する美貌の女賊・黒蜥蜴は、巨大なダイヤ「エジプトの星」を狙い、宝石商の娘の誘拐をくわだてる。名探偵・明智小五郎の機転で誘拐は未遂に終わるが、黒蜥蜴はさらに巧妙な手口で迫る。追う者と追われる者、知と情が激しく交錯し、いつしか二人の間には奇妙な愛が芽生えるが…。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団。舞台芸術作品の創造・上演とともに、優れた舞台芸術の紹介や舞台芸術家の育成を目的とする。2007年に宮城聰が2代目芸術総監督に就任以来、より多彩な舞台芸術作品の創造や国際演劇祭の開催とともに、教育機関としての公共劇場のあり方を重視し、中高生鑑賞事業公演や人材育成、アウトリーチ活動などを展開。
不朽の名作オペラとして知られる『ばらの騎士』。その舞台が華やかな鹿鳴館時代の日本に置き換わり、宮城聰、寺内亜矢子の初共同演出と、古典から現代音楽まで自在に操る根本卓也の音楽で、軽快な演劇作品に生まれ変わる。俳優たちの生演奏にのせ、貴族たちのドタバタラブコメディが初笑いを誘う!
『アンティゴネ』は、2017年、世界最高峰の演劇の祭典「アヴィニョン演劇祭」からの招聘を受け製作された。静岡市・駿府城公園でのプレ公演を経て、客席数約2,000のメイン会場「アヴィニョン法王庁中庭」で演劇祭のオープニング作品として上演。人を善悪に二分しない王女アンティゴネの思想に、「死ねばみな仏」という日本人の死生観を重ねた独創的な演出、舞台全面に水が張られた装置や、高さ30mの法王庁の壁面に俳優
目的のためなら手段を選ばない暴君と、権力の座に上りつめる新しい王。暴君を殺したのはいったい誰か───。シェイクスピアの歴史劇の面白さがぎっしり詰まったイングランド王リチャード二世の物語が、虚言・疫病・戦争に今なお翻弄され続ける現代を照らし出す。
芸術は、いったい誰のもの?芸術とは、劇場とは?宮城聰が初めて挑む、骨太の社会派作品!原作は、1936年に書かれたクラウス・マンの小説『メフィスト』。当時、ドイツ最高の俳優と謳われ、国立劇場の芸術監督でもあった実在の人物グリュントゲンスをモデルとし、発禁状態にまでなった小説は、80年代にはフランスの太陽劇団により舞台化され、ハンガリーのサボー監督による映画でも知られる。時代に翻弄される天才俳優の姿を