三東はときに「怪物的なダンサー」と称される。繊細にして強靭。細胞の一つひとつを意識的に使った完璧な身体コントロールをもちながら、絶えずそれを凌駕する熱量のエネルギーがあふれ出してくるのだ。舞踏とは違うが、三東もまた重力を自らの力として踊るタイプのダンサーである。およそ通常の生物とは作動原理が違う。まるで体内に他の生き物が何匹も巣くっているような、予想のつかない動きの連続で、目を離すことができない。
タイトルの「Matou」は、日本語の発音では様々な意味がある。「着用する」「絶えずそばに置く」「からみつく」などなど。三東自身は「人生を全う(まっとう)するために、踊り続けることを運命づけられた作品」とも言っている。たしかに2015年に初演されて以来、この作品は世界各国で上演され、数々の賞を獲得してきた。そのたびに深まり、幾度も観客を魅了してきたのである。
そこに物語はない。だが三東の身体には、どの瞬間にも止まることのないドラマが起こっているのだ。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
国際的に活躍する三東瑠璃主宰のダンスカンパニー。個々の身体の特性を引き出し、繊細なアプローチで丁寧に作品を創り上げている。代表作として『住処』(2018年)、『Where we were born』 (2020年)、『ヘッダ・ガーブレル』 (2022)、『TOUCH - ふれる - 』(2021- 2024)がある。2023年3月には初のヨーロッパ・ツアー(チェコ、ルーマニア、フランス)を実施し、高い評価を得た。2025年1月にはJapan Societyの招聘により、初のNY州2都市(チャタム、ニューヨークシティ)公演を行う。すべての公演がSOLD OUTになり、観客や批評家からも、高い注目を集めた。
三東瑠璃
「生きることが踊ること」。5歳からモダンダンスを始める。小学生にして「踊ることで生きる」と意識し、一筋に生きている。自作自演のソロ『Matou』は 14 カ国 21都市で上演され、高く評価されている。2017 年に Co.Ruri Mito を立ち上げ、 緻密な構成と独自の身体表現を特徴とする作品を定期的に発表している。土方巽記念賞など、国内外で受賞歴多 数。2020から2022 年度公益財団法人セゾン文化財団フェローII。舞台・映画・演劇など多岐にわたる分野で活動中。 2020年より Evoke Dance Studio 代表として、後進育成にも力を注いでいる。
「ヘッダ・ガーブレル」を、三東瑠璃の演出・振り付けで立ち上げたコンテンポラリー・ダンス作品。三東自身がヘッダとして出演し、Co. Ruri Mitoのダンサー青柳万智子、安心院かな、金愛珠、斉藤稚紗冬がコロスで出演。さらに映像出演として森山未來、杉山剛志、中村あさき、宮河愛一郎が登場。
TOUCH - ふれる -
Co.Ruri Mitoは2021年より「TOUCH - ふれる -」というプロジェクトを3年間発展させてきた。第一弾「TOUCH - ふれる - #1」は「風」をモチーフに、移動し続け留まらない「風」に触発され、観客が「動かされる」体験を提供。風になびく舞台装置や衣装、空気(風)によって振動する音楽、「動かされる」出演者が全体で1個のインスタレーションとなり、新しい表現を創出した。
2020年初演したCo.Ruri Mitoの代表作。コロナ禍の真っ只中で、7名のダンサーとクリエイションを行い、施設利用の条件が緩和された10月に上演した作品。個と群の関係性をテーマにし、「自分の身体とはどこからどこまでか」という問いを投げかけ、生命の根源に迫る。私たちの存在とその相互作用を探求する試み。曖昧な身体の境界線を通じて、個の消滅や集結の解釈を観る者に委ねる。
TOUCH - ふれる -
Co.Ruri Mitoは2021年より「TOUCH - ふれる -」というプロジェクトを3年間発展させてきた。「TOUCH - ふれる - #2」は最終成果となる公演だ。キーワードは「グラデーション」。7名のダンサーが固有の身体を軸にユニゾンを踊る。音楽は内田輝。自作楽器を調律し時間を立ち上げる。衣装はYANTOR。手紡ぎ手織りの素材で、作品の世界観を支える。始まりも終わりもない作品。