伝統舞踊である日本舞踊でもコンテンポラリー・ダンスの要素を取り入れる試みなどは行われてきたが、表層的な混合に終わることが多かった。
例外的に二代目花柳壽應は、正統の日本舞踊を修めながら、モーリス・ベジャールの『ザ・カブキ』のアドバイザーを務めるなど、コンテンポラリー・ダンスにも造詣が深く数々の成果をあげてきた。今回の「ボレロ」の振付は、壽應の弟子として古典舞踊と創作舞踊の両面で薫陶を受けてきた花柳源九郎が務めた。
本作は娘(清姫)が、恋しい男(道成寺の僧侶、安珍)を追いかけるうち、自らの情念に呑み込まれ大蛇になってしまう「安珍・清姫伝説」に基づいている。このモチーフは『道成寺もの』と言われ、能や歌舞伎や舞踊など様々な演目になっている。
日本舞踊は一本の扇子を様々な物に見立てて踊るのが特徴だ。両手に持って広げれば経典、頭にかざせば笠。今回の男性舞踊手は「二枚扇」を長く連ねることで、山道や川、さらには変化した蛇体などを見せつつ、ときに登場人物の心情も拡張して描き出す。
こうした日本舞踊独特な表現方法に加え、本作では立体的な空間構成、そして陰影のある照明などの新しい劇的な効果を生んでいる。徐々に高まってついには自身を蛇に変えてしまうほどの清姫の思いが『ボレロ』の曲調とシンクロする。日本舞踊の新しい可能性を開く作品といえる。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
オンデマンド配信。
日本の伝統芸能である日本舞踊の普及を通じ、豊かな社会づくりに取り組む団体です。主要な流派の日本舞踊家が所属し、古典舞踊の継承や新作の発表を行う多彩な公演事業を始め、子供たちを対象としたワークショップや映像作品の制作、次世代を担う日本舞踊家の育成など、日本舞踊の魅力を発信する様々な活動を行っています。全国に26の支部を擁し、各地域の文化の発展にも貢献しています。