久門剛史のインスタレーションは、音や立体、光と影によって詩的情景を緻密に構成し、観るものの身体感覚へダイレクトに介入する。その空間は劇場的とも評され、また、2016年にはKYOTO EXPERIMENTで初演されたチェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』の舞台美術と音を担当するなど、徐々に舞台芸術への関心を高めてきた。
その久門が、ロームシアター京都のサウスホールという、自身にとってかつてないスケールの空間と対峙する劇場作品の制作に初めて挑む。近年、その魅力に惹かれるようにして訪れたアイスランドやインドネシア、タイ、そして日常生活を送る京都で、目的を定めず気ままに採集したフィールドレコーディングと、オブジェクトの記号的な断片が空間の中に彫刻として重なり合い、大きな力と小さな力、表と裏、嘘と真実といった対の概念がメタフォリカルに往来する。社会の権力構造と規範、自然と人為のパワーバランス、母性と父性、それらの平衡状態を保とうとする心理。研ぎ澄まされた繊細なサウンドスケープが空間を染めるとき、あるいは駆け巡る暴力的な閃光と轟音が全身を包むとき、アーティストの批評的な探求と観客の個人的な記憶が交差する。
※以上、2019年時点の情報
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
1981年、京都府生まれ。京都府在住。様々な現象や歴史を採取し、音や光、立体を用いて個々の記憶や物語と再会させる劇場的空間を創出する。近年の主な展覧会に、個展「MoCA Pavilion Special Project Tsuyoshi Hisakado」(上海当代芸術館、2016)、あいちトリエンナーレ2016、「MAMプロジェクト025:アピチャッポン・ウィーラセタクン+久門剛史」(森美術館、2018)。現在、アピチャッポン・ウィーラセタクンとの共作が、第58回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「May You Live in Interesting Times」(2019)で展示。2020年3月には豊田市美術館で国内初の大規模な個展を開催。2016年には世界各国で上演されたチェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』の舞台美術を担当した。近年の主な受賞に「日産アートアワード2015」オーディエンス賞、「平成27年度京都市芸術文化特別奨励者」、「VOCA展2016」VOCA賞、「メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2018-2020」などがある。
※以上、2019年時点の情報