個人史と政治の関わりを独自の演劇的アプローチで掬い上げ、タイ演劇界でいまもっとも注目されている若手演出家ウィチャヤ・アータマート。本作はクンステン・フェスティバル・デザールや、ウィーン芸術週間をはじめとした多くの有力国際フェスティバルに招聘されるなど、高い評価をあつめる話題作だ。
舞台はバンコクの小さなキッチン。登場する姉弟は毎年5月のある日をこのキッチンで一緒に過ごし、料理をしながら亡くなった父親を想う。二人の間で生まれる会話には誇張がなく、時に冗談をかわしつつ、ただありのままが描かれているだけなのだが、やがて姉弟の個人的な物語は、二人の過去・現在・未来が混ざり合いながら、バンコクの政治史へとつながっていく。近現代史においてたびたびクーデターが繰り返されるタイだが、ここでは、日常生活のあらゆるところに染み付き、表裏一体となった「政治」という存在が、繊細かつシンプルに紡ぎ出される戯曲のなかで鮮やかに浮き上がってくる。
※以上、2021年時点の情報
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
ウィチャヤ・アータマート Wichaya Artamat タイ、バンコク
演出家・For What Theatre メンバー。1985年、タイ、バンコク生まれ。タマサート大学映画専攻を卒業後、ライブパフォーマンスに魅了され、Bangkok Theatre Festival in 2008のプロジェクトコーディネーターとして劇場で働き始める。2009年にはNew Theatre Societyに参加し、実験的な形式や演劇への斬新なアプローチが注目を集めた。 特定の期間を通して社会がどのように歴史を覚えているか、またいかに忘れてしまうかを、様々な創造的な分野の人々とコラボレートすることによって探求することに強い関心を持つ。2015年にFor What Theatreを共同設立。「Sudvisai Club and Collective Thai Scripts」のメンバーでもある。2014年に『In Ther’s View: a Documentary Theatre』、2015年に『Three Days in May』でInternational Association of Theatre Critics Thailand Centre (IATC)の最優秀演劇賞を受賞。
For What Theatre
For What Theatre は、それぞれが劇団に所属する3人の演劇人によるグループ。ウィチャヤ・アータマートはNew Theatre Society、Sasapin Siriwanij はB-Floor Theatre、Ben BusarakamwongはCrescent Moon Theatreに所属。このコレクティブは、演劇、ライブパフォーマンス、ストーリーテリング、人形劇、パーティ、展覧会などさまざまな形式の作品を生み出し続けてきた。その幅広い創作の中には、『6th PARTY Re:Re:Khaosarn』『3 days in May』『 Little Red in The Ruins』『What We Talk About When We Don't Talk About the Elephant in the Room』『SandCastle Party | a Journey Performance』『Oh! Ode (Oh! What Joy, What Goodness, What Beauty Calls For Ode No.7012)』がある。 グループ名が示す通り、3人は自らの実践を問い直し、社会的、政治的、ジェンダーや宗教、信仰に関わる問題を伝えるさまざまな芸術の形式やプロセスを掘り下げるために集まっている。For What Theatreは、ある意味では遊び場であり、実験室であり、自分自身や社会に対する疑問を投げかけては答えを探すための自由な空間だ。