都では、朝廷が二つに分かれて争っていた南北朝の頃のお話です。
瀬戸内海の土岐島に、おもんという女の子と八兵衛爺とが暮らしておりました。この爺は、若いころ倭寇として遠く・朝鮮・中国の沿岸で活躍しておりましたが、ある海戦で、瀕死の中国人の女から預かったのが赤ん坊のおもんだったのです。ですから爺やは「おもんのかかやんは、じゅごんになって、西の海へおとうを探しに行っとる」と言いきかせて育てました。
それを固く信じたおもんは、寂しくなると草笛を吹いて母の幻を追い続けました。
ところがある日のことです。
この島に深手を負った南軍の侍がながれつきました。最初に見つけたおもんは、この侍の涼しげな面差しに一目ぼれ。いつもはおもんをいじめる権田・源太・奈々たち、悪ガキ仲間の助けを借りて、この若侍宗春を匿い、介抱します。
しかし、宗春潜入の噂は、この島を支配する北軍の知るところとなりました。実は、宗春は南の朝廷のために、この島に隠されている貴重な黄金仏を手に入れるためにやってきた密使だったのです。
北軍の追及の手は厳しく、宗春は子どもたちに助けられて、島の念仏山に逃れますが、偶然にも、そこで黄金仏を発見するのです。
いよいよ島を脱出。しかし、船に乗ろうとする宗春たちは、追手に進路を阻まれてしまいました。
「うちがあいつらの目を引くけん、その間に、あんやん逃げてしもうて」
おもんは宗春の衣を羽織り、岩の上で必死に笛を吹き続けました。
その時、一本の矢がおもんの背を射抜きました。ああ、おもんが海に落ちていきます。
しかし次の瞬間、人々が目にしたのは、沖合に待つ母親の懐にだきついていくおもんの姿でした。
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