電話や鍋など、さまざまな日用品=遺品を土で固められた舞台(能舞台を模している)に置き、語りはじめる五人の女優たち。彼女らは、イェリネクのテキストを舞台上で「伝達」しようとしているのだが、その試みは互いの突っ込みや言葉の奪い合いにより、うまく運ばない。「上演は失敗する」という印象的なフレーズと、不自由そうに発せられる「ペンも紙も失ったので、言葉を記録し、それを誰かに伝えるためには、ただこうして、頭で覚えるしかなかった」というオリジナルのせりふが、共に反復され、桔抗する。その響きの中に、3.11以後を語ることの複雑さと、 それでも消し去ることのできない死者たちの存在が、浮かび上がる。(F/T13:Documentsより転載)
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
1956年生まれ。劇作家、演出家。80年代半ば「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」というチームで注目される。90年、演劇ユニット「遊園地再生事業団」の活動を開始。『ヒネミ』で、93年、岸田戯曲賞受賞。舞台作品多数。他にもエッセイをはじめとする執筆活動、小説発表などで注目される。『サーチエンジン・システムクラッシュ』で芥川候補。『時間のかかる読書』で第21回伊藤整文学賞受賞。その後も、『トータル・リビング』など舞台作品で注目される。早稲田大学文学学術院教授。