「夢幻能」の形式によって立ち現れる
かつてない幽玄の『オセロー』
シェイクスピア四大悲劇の一つ『オセロー』。黒い肌の傭兵将軍オセローが、部下の姦計から猜疑と嫉妬に狂った末、最愛の妻を手にかける――舞台はもちろん映画化もされるなど、今も世界中で上演され続けているこの傑作悲劇を、宮城聰は「夢幻能」の形式を用い、オセローに殺された妻デズデモーナの側から描くことで、痛切な「愛の物語」へと昇華させます。
「夢幻能」は、この世に想いを残した死者(シテ)が旅僧(ワキ)の夢の中に亡霊として現れ、在りし日の栄光や苦しみを語ることで、最後は成仏するという構成を取ります。東京大学名誉教授で比較文化史の大家・平川祐弘氏は、『オセロー』を用いて「夢幻能」を解説する論文を雑誌「文學界」に発表し、その際主役(シテ)をデズデモーナとしました。偶然この記事を目にした宮城は、「デズデモーナは男性から見た女性のステレオタイプとして描かれ、個性が感じられず人間味が薄かったが、主役に逆転することで一気に魅力が増し、最大の強みになっている」と衝撃を受け、早速平川氏に謡曲台本の執筆を依頼、2005 年東京国立博物館日本庭園で初演されました。
それから13 年、宮城とSPAC が生み出した「動き手」と「語り手」の二人で一役を演じる「言動分離」の手法は一層磨き上げられ、能の言葉の美しさを際立たせています。さらに俳優による打楽器の生演奏が、あらゆる魂を浄化させる宮城演出ならではの祝祭性を力強く演出します。能舞台が設えられ、普段と趣を異にした静岡芸術劇場で、「夢幻能」が「ミヤギ能」に生まれ変わる瞬間を是非目撃してください。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
オンデマンド配信。事前に会員登録が必要です。(月額1,045円)
専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う日本で初めての公立文化事業集団。舞台芸術作品の創造・上演とともに、優れた舞台芸術の紹介や舞台芸術家の育成を目的とする。2007年に宮城聰が2代目芸術総監督に就任以来、より多彩な舞台芸術作品の創造や国際演劇祭の開催とともに、教育機関としての公共劇場のあり方を重視し、中高生鑑賞事業公演や人材育成、アウトリーチ活動などを展開。
「イワーノフ」「桜の園」を斬新な角度から構成し、今年の春初演された「ザ・チェーホフ/イワーノフとラネーフスカヤ」に「ワーニャ叔父さん」を加えた鈴木忠志演出のチェーホフ決定版。近代日本の演劇に大きな影響を与えたチェーホフの集大成。
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目的のためなら手段を選ばない暴君と、権力の座に上りつめる新しい王。暴君を殺したのはいったい誰か───。シェイクスピアの歴史劇の面白さがぎっしり詰まったイングランド王リチャード二世の物語が、虚言・疫病・戦争に今なお翻弄され続ける現代を照らし出す。
酒の神であるディオニュソスは、その新しい宗教をギリシアの地に広めようとテーバイへやって来る。神と認めない王ベンテウスは、ディオニュソスを捕らえようとするが、逆に殺される。熱狂的な宗教集団の闘争性のために息子殺しの責を負わされた母親の姿を通して、宗教と人間の関係に問題を投げかける。アメリカ人俳優エレン・ローレンが母、アガウエ役で出演する日英二ヵ国語上演。