北村明子はアジア各地を深くリサーチする「Cross Transit project」を展開してきたが、本作は「日本とアイルランド〜中央アジアへと発展していく長期国際共同制作」である。
北村を含めた7人のダンサーの動きは、高度な制動と繊細な表現、そして刃物のような鋭利さに満ちている。人が営む生活の身振りにはその土地の文化が織り込まれているが、それらをダンスに取り込むことで観客の記憶に働きかけてくるようである。
ゲストの二人が歌う「シャン・ノース(Sean Nós:「古いスタイル」という意味)」は曲よりも言葉のリズムが優先される、アイルランドの古歌唱法である。歌詞の最後に日本の神の名「アメノウズメ」が出てくる。元の歌がアイルランドの神々の名前を連ねていく歌なので、アメノウズメ(天地創造や芸能の神でもある)も登場させたという。
ともに島国で古い文化が今も息づく日本とアイルランドのアーティストが、時間と距離を超えて心を通わせる舞台なのである。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
オンデマンド配信。
北村明子
振付家・ダンサー・信州大学教授。バレエ、ストリートダンス、インドネシア武術を学び、1994年ダンス・カンパニー、レニ・バッソを創設。2001年代表作『finks』を発表。世界60都市以上で上演される。
2010年からソロ活動として、リサーチとクリエイションを行う国際共同制作プロジェクトとしてインドネシアとの<To Belong project>、東南~南アジアとの<Cross Transit project>を行ってきた。
「身体の思考」をもとに、創造活動をはじめ、演劇、オペラ、映画、CMへの振付・出演する一方、大学では、身体論、演出論、舞踊論の視点から「メディアとしての身体」をテーマに研究を行う。