この作品はコロナ禍で創作され「これぞソーシャル・ティスタンス・パフォーマンス!」と世界中で報じられた。特徴的なのは、舞台美術と一体化した「客席」である。三方を壁で囲われ、壁に空けられた穴から中をのぞき見るのだ。通常の舞台芸術でも、観客は暗い客席から一方的に明るい舞台を見ているわけで、いわば「のぞき」とは舞台芸術の本質なのである。
カンパニーを主宰する浅井信好は多彩な顔を持っている。ヒップホップ出身で舞踏の山海塾の元舞踏手、現在は名古屋で「黄金4422」というダンスハウスの芸術監督でもある。
出演は浅井と、浅井の元で学んだ杉浦ゆら(撮影時は高校生)、パリで活躍する奥野衆英の三人。白い砂が敷き詰められており、奥野が埋もれている。みずみずしく生命力に溢れて踊る杉浦と対置するように、たくましい浅井が次第に朽ちて「死」をもたらし、狭い空間に「世界」の陰影を与える。やがて奥野は、竜安寺の石庭のように砂を使って波紋を生み出し、静かに「再生」をもたらすのである。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
オンデマンド配信。
月灯りの移動劇場/浅井信好
2005年〜2011年まで舞踏カンパニー《山海塾》に所属。2011年に文化庁新進芸術家研修制度で《バットシェバ舞踊団》に派遣。2012年よりパリを拠点に《PIERRE MIROIR》を主宰。2016年に日本へ帰国後、《月灯りの移動劇場》を主宰するとともに、コンテンポラリーダンスのプラットフォーム《ダンスハウス黄金4422》の代表を務める。名古屋芸術大学舞台芸術領域専任講師。2013年ARTE ART PRIZE LAGUNA12.13 特別賞、2014年愛知県芸術文化選奨新人賞、2017年グッドデザイン賞などを受賞。