妊娠・出産をめぐる日本の現状は、明るくはない。少子高齢化に直面しているものの、「産み育てやすい」環境整備は遅々として進まず。一方で「産まない自由」に対する社会的圧力も未だやむことはない。この閉塞的な状況に【擬娩(ぎべん)】という、一風変わった習俗の再起動を通してアプローチをする、演出家 和田ながら。本作は和田の2019年初演作品を、今回が舞台作品への初参加となるメディアアーティスト やんツーをコラボレーターに迎え、リクリエーションするものだ。
広辞苑によれば、擬娩とは「妻の出産の前後に、夫が出産に伴う行為の模倣をする風習」。この極めて原始的かつ“演劇的”なフレームを借りることで、男女の出産未経験の出演者たちは、“母だけが可能”とされてきた妊娠・出産体験を舞台上で解放し、シミュレートしていく。再創作にあたり、10代の出演者を公募でキャスティングする点も注目だ。次代を担う若者と、テクノロジーを基盤にしながらも常に身体的なアプローチを続けてきたやんツーの参加によって、本作は同時代的なアップデートを重ねながら、新しい想像力を持って「産むこと」への問いを投げかけていくことだろう。
※以上、2021年時点の情報
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
【和田ながら】
2011年2月に自身のユニット「したため」を立ち上げ、京都を拠点に演出家として活動を始める。日常的な視力では見逃し続けてしまう厖大な細部を言葉と身体で接写する、あるいは捉えそこないつまづくさまを連ねるように作品を制作。美術家や写真家など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2015年、創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5最優秀作品賞受賞。2018年、こまばアゴラ演出家コンクール観客賞受賞。2019年より地図にまつわるリサーチプロジェクト「わたしたちのフリーハンドなアトラス」に取り組んでいる。2021年度セゾン文化財団セゾン・フェローI。
【やんツー】
1984年神奈川県生まれ。2009年多摩美術大学大学院デザイン専攻情報デザイン研究領域修了。人間の行為を情報技術が代替する自律型の装置を作品として制作。デジタルメディアを基盤に、人間の身体性や表現の主体性を問う。菅野創との共同作品『SENSELESS DRAWING BOT』で、第15回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞 (2012)を、同じく『アバターズ』で第21回優秀賞 (2018)を受賞。近年の個展に「_prayground」(rin art association、2019)。展覧会に、「DOMANI・明日展」(国立新美術館、2018)、「Vanishing Mesh」(山口情報芸術センター [YCAM]、2017)、あいちトリエンナーレ2016 (愛知県美術館)などがある。
※以上、2021年時点の情報