白石加代子「百物語」第十七夜
白石加代子「百物語」第十七夜
演出の鴨下さんが病気になられて、「百物語」が一時中断し、久しぶりの岩波ホールでの公演である。
鴨下さんは「百物語」のコンセプトについて次のように語っている。
「捨てるだけのものは全部捨てた、ヴィジュアル面もそうですが、第一覚えなくていいわけでしょ、だから記憶力も捨てた。相手役も捨てた。演劇の要素をどんどん捨てていった。
だから僕は、演劇にはなりっこないと思っていた。ところが、そうやってどんどん捨てていっても、それでも演劇になる。
それが最大の発見です。音楽、美術、まあ照明はちょっとあるけれども、相手役はいない、覚えなくていい、台本を見るわけですからどこを見るというような目線も決められない。
表情だってそんなに作れない。動きだって作れない。でも、動くし、目線はあるし、相手役もいるように見えるし、覚えないでやってるようには見えない。ないものづくし、ところが全部条件を捨てても演劇は残るんだね。どうしてなんだろう。それが一番の発見でした。こんな最小限度の演劇ってないんですよ。しかし、それが最もシアトリカルでドラマティックなアートになっている。それが僕は一番不思議だと思う。
もう一つはね、「百物語」をやるまでは、白石さんという女優さんが、こんなにユーモアがあって、膨らみがあって、セクシュアルなところがあって、という人だと思わなかったのね。そういういろんな要素がこの人の中に内在しているというのは知らなかった。
実際に「百物語」をやってみて、ああ、この人の中にこんなにたくさんのものがあるんだと分かったのが、二つ目の発見ですね。その芽を伸ばしていけば、「百物語」って大丈夫なんだという自信を、第一夜から持てた。
三番目は、日本語のいいものをやりたい、というのがテーマとしてありましたから、日本語としてふくらみのあるいろんなものが出来てきたというのが、やはり成果のひとつでしょうね。日本語としてどうか、ということが稽古でもいちばんうるさく言っている部分なんです。
日本語を音声に出して読むということは、どういうことなのか。どういうことが日本語を読むということなのか、というのがやっている間に僕らが覚えたことだろうと思います。
この三つが一番の成果なんじゃないでしょうか」
浅田作品はたまたま読んでいて、何だこれは怪談じゃないかと強引にレパートリーにする。「うらぼんえ」があまりにも好評だったので、2匹目のどじょうを狙って、「鉄道員」を取り上げる。しかし、「鉄道員」が二匹目とはあまりにも贅沢な話である。「昆虫図」はショートショートの名作。毒がいっぱい詰まった話だが、久生十蘭の言葉は豪華絢爛で密度がある。こういう文体に出会った時の白石加代子は俄然生き生きとしてくる。「赤い鼻緒の下駄」は、台本の見返しの部分が赤であり、舞台はそれをうまく小道具として使っている。時々、鴨下演出はそういった奥の手を見せる。赤い鼻緒の下駄が揃えられた、少女の眠る部屋に入っていく場面が印象的だった。
(百物語シリーズ総集編パンフレットより転載)
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
1990年設立。主な作品に、大竹しのぶ「奇跡の人」、古田新太・生瀬勝久「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」、西城秀樹・鳳蘭・市村正親「ラヴ」、天海祐希「ピエタ」などがあげられる。(メジャーリーグHPより)
白石加代子「百物語」第二十二夜
筒井康隆「時代小説」は前からやりたかったものである。筒井さんにその旨を申し上げると、「え!ほんとうにやるの?」といった反応だった。つまり「読んでも、お客さんには何の事かさっぱりわからないからやめたほうがいい」とお考えだったのだ。そして実際稽古に入って、これは鴨下信一でないと出来ないものであったと思い知らされた。鴨下はこう語っている。「『時代小説』、これは日本語のリズムで聞くべきものだ。リズムは地口
自分の愛人を絞殺しその死体から陰茎を切り取った、それがいわゆる「阿部定事件」(昭和11年)である。当時大変なセンセーショナルを巻き起こしたこの事件の「予審調書」がなぜ警察から流出したのかは未だ謎であるが、本公演では愛人とのなれそめから次第に関係を深めていき、殺しの経緯を詳しく語った部分を取り上げている。「不思議なことにエロチックな部分はほとんど印象が薄かった。それよりもなんともいえない懐かしさがあ
「モンテ・クリスト伯」という題材を選んだのは、かっこいい言葉がきら星のようにちりばめられているからだ。「モンテ・クリスト伯」というストーリーを再現するのではない。アレクサンドル・デュマが書いた言葉を、百何十年か前に書かれた瞬間の鮮度で再現したいのだ。おしゃれでカッコいい、スピーディーでスリリングなコンサートのような舞台として上演しようと思っている。
マクベスは夢を見る。栄光と権威、王冠の夢を。しかしそれは引き返せない悪夢だった。そしてその王冠に手をかけたときから、坂道を転がるように、破滅への道を一直線に突き進む。