「公演時間の大半を直角に交わる二面の黒壁に沿って右から左への移動に費やされた」という本作は、「静中の動」、「内に圧縮されて解放を求めるエネルギーの迫力を醸しだし、さも鳥が天上に羽ばたきたくとも羽ばたけずに果てるかのような」姿を見る者に連想させた(吉沢伝三郎 / 「現代思想」)。「幻想とは、何よりもまず不安を意味し、破壊を意味する」というロジェ・カイヨワの言葉が、「鳥」という作品にひとつの生命を与えている。
舞踏家。2006年までは「上杉貢代」として活動。幼少期からクラシック・バレエを習い、谷桃子バレエ団を経て1970年より大野一雄に師事。1975年ソロ公演「紅蓮夜曲」にて極私的舞踏空間の追求を始める。他者との出会いの作業として演劇、フランスのダンサー、音楽家との公演に参加。2020年上杉満代舞踏公演「迷宮伝説」、2023年イギリスで開催された国際舞踏フェスティバル「Rebellious Bodies」に参加。「ベイビーメランコリア・夢六夜」にて2009年度舞踊批評家協会賞受賞。
フランスでのカトリーヌ・ディヴェレスとの3年間の作業を経て日本に戻ってから最初の舞踏ソロ作品。「動きの巾ではなく気配の落差」、「抑圧した動き」で劇場の空間をつかみ、「彼女に於いて愛(エロス)は完結する」(佐藤正敏/テレプシコール通信)と評されるほど、観客を魅了した。
音楽はマリア・カラスとバッハのアレンジのみで構成。「肉体の絶対的なコントロール、その信じ難い力と同時に肉体の極限的な脆さをも示す」(フェスティバルアートディレクター・ペーター・ビュ / フィガロ紙1997/8/7)、「数光年分のステレオタイプを持つ女性像、それをすみずみまで探索する。誰もがそこに居合わせる。驚くべき方法で全身を変貌させながら心の状態を語る」(デュ・テアートル1997/秋号 NO.1