「無いみたいなんですよ、手も足も、顔も胴体も……」
確かなものはなにもない。
別役実×ルイス・ブニュエルを意識した果てなく更新され続ける言葉と世界。
ケラリーノ・サンドロヴィッチが放つ不条理演劇の最新形!
賛成派と反対派のシュプレヒコールが遠くに聞こえる中、物語は始まる。
とある洋館に暮らす金持ちの一家。その中では父親(三宅弘城)と母親(犬山イヌコ)、そして息子(遠藤雄弥)と娘(峯村リエ)が、今日も退屈な会話を繰り返している。家族の会話は常に噛み合わず、家族に仕える2人の使用人(マギー、小園茉奈)の様子もどこかおかしい。
そこに仕立て屋の娘を誘拐した犯人から、身代金を要求する間違い電話が。父親は代わりに身代金を払ってやるように言うのだが、その電話は、退屈な日常を過ごす父親に、日記に書く材料を与えるため、息子が男の使用人にかけさせたものだった。そして、この家は借金まみれで、もはや金などないことが明らかになる。
その洋館の前に佇む、隣町からやってきた乞食の兄妹(大倉孝二、水野美紀)。妹は会ったこともないこの家の息子と結婚すると言い、その姿を確認してもらおうと兄を電信柱によじ登らせ、自分は窓から洋館に入っていく。残された兄は、あとからやってきた乞食の父親(みのすけ)、母親(村岡希美)、祖母(藤田秀世)と庭に住み着き、出来事の時系列を無視して絵ハガキを配達する郵便配達(廣川三憲)と一緒に、男の使用人を困惑させる。
一方、窓から洋館に入った乞食の妹は、金持ちの婚約者(木乃江祐希)を押しのけて妻となる。だが、思想の違いを理由に別れて金持ちの父親と結婚。居場所を失った妻と息子は家を出て、息子は反対派の市民運動家となる。そして乞食一家は洋館で暮らし始めるが、この家が借金した金は男の使用人に横領され、罪人名簿に偽の署名を書かれた金持ちの父親は、警察課長(廣川三憲)により死刑を宣告されるーー。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
ナイロン100℃の前身となる「劇団健康」は、1985年、当時のインディーズバンドブームの中心的存在にあったバンド「有頂天」のボーカルを務めていたKERAを中心に、犬山犬子(現・犬山イヌコ)、田口トモロヲ、みのすけらによって旗揚げされた。ナンセンス・コメディを中心とした本公演14作品と数々の番外公演を上演し、高い評価と人気を得るも、1992年に解散。翌1993年、再びKERAを主宰として、犬山、みのすけ、峯村リエ、三宅弘城、今江冬子、藤田秀世、手塚とおるらで、ナイロン100℃を立ち上げ、1st SESSIONとして『インタラクティブテクノ活劇 予定外』を発表。
公演をSESSIONと称することに表れているとおり、劇団員に加えて客演やクリエイティブ・スタッフとともに、ナイロン100℃にしかできない表現を生んでいる。
これまでナンセンスな笑いを交えた作品をはじめ、シチュエーション・コメディ、ミステリー・コメディなどを上演してきたが、近年は岸田國士、フランツ・カフカ、別役実などをオマージュした作品や、壮大な群像劇など、多彩な舞台を発表している。
2019年、第45回公演『百年の秘密』(再演・2018年上演)にて、第26回読売演劇大賞 最優秀作品賞を受賞。
KERA自作の曲に由来する、ナンセンスとサスペンスで彩られた、子どもをめぐる親たちの物語郊外の動物園のそばに建つ一軒家に住むサトウ家の夫婦(峯村リエ・山内圭哉)。その息子・ケンタロウ(みのすけ)はイジメが原因で不登校中だ。彼をめぐり、新任の家庭教師・サクライ(水野美紀)や、動物園の飼育係・ユウチャン(大倉孝二)、ケンタロウの同級生のスズキサチオの両親(犬山イヌコ・山崎一)、自分を神様と名乗る男(廣
ナイロン100℃ SIDE SESSION SPECIAL
ドイツの放送作家、ギュンター・アイヒによって1950年代に書かれたオムニバス放送劇『夢』。その中から舞台用にアレンジ可能と見なした3編を選び、オリジナルで書き下ろした3編を加えて上演。何十年も止まらない列車に閉じ込められて暮らしている家族の話『列車』、ある三流小説家が死の世界を経験する『死』など、6話6様の悪夢が繰り広げられる。「ナイロン100℃」史上初めての、笑いが一切ない作品。
ナイロン100℃初期の代表作となった作品。南の孤島、浜辺に建つ一軒家。そこに集まる女達。平穏な夏を過ごすはずだった彼女たちを襲う数奇な運命。16年間に渡る、憎しみと許し、拒絶と理解、偶然と必然の物語。ケラリーノ・サンドロヴィッチとナイロン100℃が紡ぎだす、サスペンス・コメディの頂点。女性4人だけの出演者による濃密な作品は劇作家としての実力を広く知らしめ、この戯曲により岸田國士戯曲賞を受賞した。
カフカ的緊張感と平衡感覚によって繰り広げられる、ケラリーノ・ナンセンスの金字塔。フリーライター・高野正五郎(藤田秀世)宅に1本の間違い電話が入った。それ以来、妻・マチルダ(峯村リエ)は「うちはソバ屋じゃないです」と言いながら、せっせと出前に勤しむようになる。高野は反対しながらも出前持ちやそば職人を雇い、自らの行動さえも矛盾してゆく。同じ頃、小説の仕事が舞い込んできた高野は張り切って構想を練るが、