今作は、サミュエル・ベケットの戯曲「ロッカバイ」に触発され創作した。
「ロッカバイ」は、家の中で死と向かい合う老女の孤絶を描いていたが、今作は、公園にいる家を失った一人の女にフォーカスした。帰る家を失った女が、かつて住んでいた幻影の家に戻っていく思いにとらわれている。
コロナ禍で仕事や家を失い、公共の場でさらに孤独を深める人たち、その老い、死など現代社会の課題を鮮明に浮彫にする。さらに、今もなお世界で続く「戦争」に日々震撼させられているように、近年の国内外の世界的天災や人災によって家を失い、また追われて戻れない人たちの、苛烈な痛みとも響き合っている。
そして、作品構造には映像が重要な役割を担っている。映像が単なる装飾的な効果ではなく、映像が現前する身体と協働し、演劇と映像との新しい関係が切り開かれていく可能性を追求している。あたかもそれは、虚構の身体と、実在する身体が共演しているようである。
演劇博物館別館6号館3階「AVブース」にて視聴可能です。
2028/12/31まで
2001年、演出家藤田康城、詩人・批評家倉石信乃、アクター安藤朋子、プロデューサー前田圭蔵、音楽家猿山修の5人でARICA を設立。
その後テキスタイルコーディネーター・デザイナー安東陽子、グラフィックデザイナー須山悠里、テキスタイルデザイナー渡部直也、美術家高橋永二郎、パフォーマー茂木夏子、制作福岡聡らがコアメンバーになる。
ソロ・パフォーマンスを軸としながらも、作品ごとにダンサー(山崎広太、黒沢美香、神村恵)や俳優(戌井昭人、奥村勲)、音楽家(福岡ユタカ、イトケン)や美術家(西原尚、金氏徹平)、アクショニスト首くくり栲象らをゲストに招き、多分野の人々とのコラボレーションは、演劇やダンスといった枠を超え、ヴィジュアルアートや音楽、建築やデザインなどのクリエイティブ・ワークと呼応するパフォーマンスとして注目を集めている。
一方、長年サミュエル・ベケットの研究を続けており、その成果としてベケットにインスパイアーを受けた作品も上演している。東京ワンダーサイトや、桐生のノコギリ工場跡地、西麻布スーパーデラックス、横浜・BankART NYKなどといった、いわゆる既成劇場ではない空間での上演も多く、そのサイト・スペシフィックなアプローチや、身体と共振するライブ演奏、メカニカルな装置の導入等を通じて、身体表現の新たな地平を切り開こうとしている。
国内だけでなく、海外公演も多数。近年はインドの演劇人との交流を深めている。